豆知識

肉を隠語で表すのはなぜ?植物の名前を使うようになった理由は?

肉の隠語

いきなりですがクイズです。

桜、牡丹、紅葉、柏――この美しい花々の名前を聞くと嬉しくなるのはどんな人だと思いますか?
 

「花の好きな人」?
 

う~ん、惜しい!正解は……
 

「肉の好きな人」
 

でした。
 

実はこの花々の名前は動物の肉を表しているんです。

桜は馬、牡丹は猪、紅葉は鹿、柏は鶏。

「桜肉」や「牡丹鍋」といえばお肉屋さんや料亭のお品書きでよく見かけますね。
 

でもどうして肉を花の名前で呼ぶのでしょう?それぞれの由来は?

今回はそんな肉と花の関係を、わかりやすく解説していきます。
 

肉を隠語で表すようになったのはなぜ?

肉に花の名前がついたのは江戸時代

それは「肉じゃないから見逃して!」というお店からのサインでした。
 

なぜなら当時、人々は「生類憐みの令」による獣肉食の禁止に苦しんでいたのです。
 

仏教とおふれによる獣肉食の禁止

仏教が盛んな日本では、古来から殺生や肉食を禁止するおふれがたびたび出されてきました。

戦国時代には、あの豊臣秀吉も「獣肉食はよくないことだ」と語ったとされています。

そのため庶民はもちろん、上流階級でも獣の肉を堂々と口にすることはできませんでした。
 

とはいえ禁止されるとなおさら食べたくなるもの。

たくましい庶民の間ではこっそり獣の肉を提供する店が繁盛していました。
 

しかし1685年、江戸幕府がついにおふれを出します。
 

その名も「生類憐みの令」
 

犬を愛した徳川綱吉公が、ついでに他の動物も守り始めたのです。

このおふれによって、

  • 動物を殺すこと
  • 動物の肉を食べること
  • 動物の肉を売ること

全てが厳しく禁止されてしまいました。

肉から薬へ

生類憐みの令によって、職を失った店主や狩人はこう考えます。
 
「肉がだめなら薬を売ればいいじゃない」
 

というのも獣の肉は滋養強壮に効果抜群。

そのため薬屋では以前から養生用として売られていて、「薬」まで禁止するのはさすがに気兼ねした幕府も黙認していたのです。
 

こうして表向き「薬屋」に看板を変えたお店は、お肉を隠語で表して幕府の目を逃れ、なんとか営業を続けることができました。
 

もちろん現在では獣肉の販売が認められていますが、江戸時代の名残りで花の呼び名だけが残っているのですね。
 

肉の隠語の由来!なぜ植物の名前を使うの?

江戸時代に苦肉の策で生まれた肉の隠語ですが、その由来には遊び心がたっぷり。

なぜ獣の肉に花の名前がついたのか、それぞれ見ていきましょう。

肉の隠語の由来

(1)桜

「桜」は馬肉のことです。

  • 切ると赤身がうっすら桜色に見えるから
  • 千葉県佐倉市に幕府直営の牧場があり「馬なら佐倉」で知られていたから
  • 馬肉の切り身が桜の花びらに似ているから

といくつか由来がありますが、赤身の色から名がついた説がいちばんしっくりくるでしょう。
 

(2)牡丹

「牡丹」は猪の肉のこと。

絵画の題材として好まれた「牡丹と唐獅子」が由来で、「しし」と「いのしし」をかけたことから「牡丹」と呼ばれるようになりました。

猪肉を牡丹の花のように盛り付けるのもこの呼び名にちなんでいます。
 

(3)紅葉

「紅葉」は鹿の肉で、鹿と紅葉が描かれた花札が由来。

花札には月ごとに季節の花々が描かれていて、10月の札を彩るのがこの鹿と紅葉の組み合わせなんです。
 

(4)柏

「柏」は鶏肉のことで、由来は二つ。

  • ニワトリの羽ばたく姿が神社で「柏手」を打つのに似ているから
  • ニワトリの体の色が柏の葉に似ているから

柏餅を包む柏の葉は緑色ですが、時間の経った柏の葉は茶色になります。

そして日本で食用されていたのは白ではなく茶色のニワトリでした。

その羽の色が柏の葉に似ていたのですね。
 

その他調理に関する面白い隠語

あからさまに言うのは気がひける……そんなときに便利な隠語は今も調理の現場で実際に使われています。

ここではその中でも和食に関する隠語を8選、ご紹介しますね。

そんな意味が?和食の隠語8選

(1)アニキ

アニキとは古い食材や料理のこと。

漢字で書くと「兄貴」、つまり先に生まれた(作られた)ものを指します。
 

(2)オトオト

逆にオトオトは新鮮な食材や料理のことで、もちろん漢字は「弟」。
 

(3)掃除

皮をむく・水洗いする・葉をはがすなど、食材の下ごしらえは「掃除」と呼ばれます。
 

(4)あたる

「あたる」は焦がすこと。

「それあたってる!」と聞こえたら、多分厨房は大変なことになっています。
 

(5)ける

「ける」は炒めることです。

「痛めつける」と連想されるのを避けてソフトに言い換えた例ですね。
 

(6)当たり鉢

「当たり鉢(あたりばち)」はすり鉢のこと。

これも「する」=「失う」の不吉な連想を避けた言い換え表現です。
 

(7)山

「山」は売り切れの品。

江戸時代から使われている隠語で、「山の頂上につくと先はない」ことから品切れで何もない状態を指しています。
 

(8)川

「川」は本日のおすすめ品です。

由来は不明ですが、聞こえたら要チェック!
 

「ける」のように隠語には不吉な表現を避ける使い方もあるのですね。
 

厨房からの声に耳をすませてみると、他にも面白い隠語が聞こえてくるかもしれませんよ。
 

まとめ

  • 肉を隠語で表すのは生類憐みの令による獣肉食禁止の名残り
  • 江戸時代には獣の肉は薬として売られていた
  • 動物の肉に花の名前がついたのは肉の色や絵画の題材が由来

 

私たちが馬や猪を堂々と食べられるのは、本当はとてもありがたいことでした。

密告されずに営業できたということは、江戸時代の庶民もよほどお肉が食べたかったのでしょう。

だって美味しいもの!
 

なお江戸時代には牛と豚を食べる発想そのものがなかったので、この二つには別名がありません。
 

今やいちばん身近な牛と豚。

あなたならどんな別名をつけますか?